黒澤先生
順天堂大学 特任教授 黒澤 尚 先生<当院診療日:火・木・金曜日(午後)>

■スポーツのけが1 膝前十字靱帯損傷

けがの仕方、症状

ひざには上下の骨をつないでいる4本の大事なすじ(靱帯)があります。その中でもスポーツの動きに最も大事な靱帯が前十字靭帯です(図1)。

スポーツ中の動作で、走っていて急に方向転換したり、急にストップしたり、ジャンプの着地などの瞬間にボキッ(ブッツ)というような音(またはそんな感じ)とともに、前十字靭帯が断裂します(図2)。柔道やラグビーなどで足にのしかかられて 切れることもあります。

受傷後はひざに力が入らなくなり、1時間後くらいから腫れてきます(切れた靱帯から出血して、関節に血がたまる)。そして、ひざが曲がらなくなります。2~3週間の急性期が過ぎると症状がなくなるために、「治った」と自己判断して病院での診断が遅れる場合もあります。

 

図1

図1:正常の前十字靱帯(矢印)
図2

図2:断裂した前十字靱帯(内視鏡写真)

 

損傷により、靱帯が伸びたり切れたりしていると、関節の安定性が損なわれて、ひざが容易にガクッと外れるような「ひざ崩れ」の現象が起きるようになります。

放っておくと

損傷した前十字靭帯は自然治癒すること はなく、ずっとひざの不安定性と不安感が残 るために一般的に手術以外の治療法は無効 です。そのまま放置した場合、ひざの周りの 筋力低下を生じ、何度も「ひざ崩れ」を起こ すようになります。

その結果、関節の軟骨・半月損傷を伴うよ うになり40歳過ぎから変形性ひざ関節症(ひ ざの軟骨がすり減って、痛む高齢者に多い疾 患)になる恐れがあります(図3)。

 

図3

図2:断裂した前十字靱帯(内視鏡写真)

 

治療方針:靱帯再建

スポーツを継続するならば靱帯を作り直す「再建術」が必要です。 またスポーツはしなくても、日常生活で「ひざ崩れ」がよく起こるような場合も再建術が必要となります。

再建術の方法

自分の別のすじを用いて再建する「自家組織移植」がベストな方法です。 順天堂病院で20年以上前から行っている自分のひざ屈筋(ハムストリング)腱を用いた関節鏡視下前十字靭帯再建術は、切開が最小限で、大きな合併症はなく、術後の結果も安定している有効な治療法として確立されています(図4)。

手術はひざを構成する大腿骨と脛骨の最適部位に関節鏡を用いて細いトンネルをうがち(穴を開けること)、そこに採取加工した腱を貫いて上端と下端を金具で固定することで前十字靭帯を再建します。

手術後の予定

手術後はひざの固定装具は何も必要とはせず、手術翌日から手術した足も着いて歩く訓練を開始します。ほとんどの場合、手術から5~6日以内で歩いて退院が可能です。手術後3ヵ月くらいまでのリハビリは大変重要で、出来るだけ頻回にリハビリ室に通ってリハビリを行います。

当院のリハビリ室では順天堂病院だけでなく様々な病院からの前十字靭帯再建術後の患者さんがリハビリを行っています。

手術後4ヵ月以降はグランド、コート、体育館などに徐々に戻って元のスポーツの練習を再開します。スポーツ復帰は手術後5~7ヵ月が目安です。

以上の方法で順天堂病院では毎年150~200名 の方に手術を行ってきており、プロや日本代表 クラスの選手から高校生、ママさんバレーのア マチュアのたくさんの方々まで、再びスポーツ を行うことが出来る喜びを提供し続けています。

 

図4
図4:小さな穴から内視鏡で前十字靱帯を再建する

 

膝前十字靱帯損傷については、当院のスポーツ整形外科医へご相談ください